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気になる女子がいる。好意ではない。好奇のほうだ。
その女子は昼休みになると、決まって校庭の隅にあるベンチに腰をおろしている。晴れの日はもちろん、雨の日は傘を差して。
そして、彼女はいつも静かに歌っている。
校内で飛び交う会話によると、名前は足立梨花。合唱部に所属する一年生らしい。なるほど昼休みは自主練習というわけか。あるいはよほど歌が好きなのか。どちらにしても、なにが彼女をそこまで突き動かしているのだろうか、という好奇心が僕を動かしたのは間違いなかった。
気づけば、僕は毎日のように校舎の三階の窓辺に立ち、彼女を遠くから眺めていた。かすかに聞こえる彼女の歌声に耳をかたむけながら。
声をかけようとまでは思わなかった。同じ高校にいても会話を交わすことなく終わるのは別段不思議じゃない。それに、僕は心のどこかで恐れていたのだろう。声をかけたせいで、彼女が歌うのをやめてしまうのを。
なのに、その思いとは裏腹に、僕の立ち位置は日を追うごとに彼女へと近づいていった。情念に突き動かされるかのごとく……。
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