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そうやって1年が過ぎようとしていた。
忘れる必要なんてない、か。
俺が欲しかったのはこの言葉だったのかもしれない。
胸につかえていた何かがすーっと下りていくような感じがした。
「ありがとう、遠野さん」
今度はちゃんと笑えているといいのだけれど。
「……ずるいよ、波野くんはさぁ」
「え? えっ、ちょっ!?」
遠野さんは何やらもにょもによ言いながら俺の肩に寄りかかってきた。
「えっ? と、遠野さん?」
どうやらそのまま寝てしまっているようだ。
まじで?
「あーあ。どうすんねん、これ」
「オレ、知ーらないっと」
「波野、責任もって送り届けてやれ」
「えぇ!?」
いつの間にか涙は止まっていた。
まったく、いい歳をした男がこんな所で泣くもんじゃない。
でも、今流した涙にはきっと意味がある。
そんな気がする。
今はまだ、彼女のことは忘れられない。
今でもまだ、彼女のことが大好きだ。
今は、それでいいんだ。
fin
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