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「あっ、遠野さんだ」 冴木の声に顔を上げると、相変わらず眩しいくらいの美人が小さく手を振りながらこちらにやってきた。 「ごめんね、遅くなっちゃって」 「全然! むしろ先に始めててすまんな」 「お久しぶりッス! って、バッサリ髪切ったんだ。ビックリした」 「まぁね。横いい?」 「え、あ、うん」 遠野さんは流れるような動作でコートを脱いで、俺の隣の席に腰をおろした。 久しぶりのせいか、彼女の美しさに戸惑ってしまう。 背中まであった髪をショートにしたおかげか、整った顔立ちがさらに引き立っているように思える。 「何飲む? というか、酒飲めるようになったのか?」 冴木がソフトドリンクのメニューを差し出している。 そういえば、遠野さんはたった一口でも酔ってしまうぐらいアルコールは弱かったはずだ。 「家ではたまーに飲むよ。外では自粛してる」 そう言いながら遠野さんは恥ずかしそうに肩を竦める。 その場の全員が、きっと同じことを思い出しているのだろう。 学生時代、ゼミの飲み会ではっちゃけてしまった遠野さんを、俺たちはもて余したという過去がある。 「もー、忘れてよねー。すみませーん、コーラください」 「相変わらずだなー。そこはウーロン茶かジンジャーエールじゃない?」 「冴木こそ相変わらず、女子はみんなジンジャーエールが好きだと思ってるのね」 そういえばそうだった。 きっと今まで付き合ってきた彼女が好きだったんだろう、なんて、唯一モテる冴木を皆で茶化したこともあったな。 遠野さんの登場で、一気に記憶が蘇ってくる。 ゆっくりと一口ビールを味わいながら、俺もおっさんになったということだよなぁなんてしみじみと考えてしまった。 いや、まだ25歳だ。若い、若い。
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