7/7
前へ
/7ページ
次へ
 彼らと一緒に飛んでいけたら良いのに、と思うこともある。あんな風にひらひらと空を舞えたら、楽しいんじゃないかと。  私には脚がある。脚らしきものの感覚がある。翼も、あるような気がする。  時々見る夢の中では、その翼をめいっぱい広げて、昼でも夜でも空を飛んでいたりする。  口から火を吹くこともある。鼻の奥に入り込んでくるのは、木や草や毛や肉の焦げる匂い。  雨風や雷を纏うこともある。波を操ることもある。一呼吸で岩を砕き、指先を少し動かすだけで山を壊していたりする。  ただしどれもあくまで、夢の中で。現実では、自分の体の動かし方すらよくわからない。脚や翼だけでなく、頭や胴体にも、枝やら根やらが絡みついてすっかり同化しているせいもあるだろう。ぼんやりと彼らの声を聞き、受け答えするだけしかできない。  夢と違って現実では、どこにも行けやしない。ちゃんとわかっている。  正直言うとほんの少し、彼らが羨ましいと思ったりもする。でも別に、辛くはない。  頭上では、新しい彼らの小さな声がざわざわと響き始めている。  今はまだ言葉にはなっていないけれど、季節がめぐったらまた、新しい名前で私を呼んでくれるだろう。そして唐突に、話の輪に引き入れられたりもするだろう。  その日々を待とうと思う。ゆっくりと。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加