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「相変わらず、恐ろしく綺麗な顔立ちだ」
本を読みながら独り言のように呟かれた言葉に、雪夜は僅かに眉を顰めた。
一瞬だけ滲んだ感情を隠すように目を閉じ、雪夜は口元に笑みを浮かべる。
「俺は綺麗な顔なんざしてねぇよ。悪鬼羅刹の顔だ」
「謙遜するな。この醜男からすれば、この世の物とは思えないほどに美しい面だ。いっそ、俺の面と取り換えるか?」
「……やめろ」
低く唸るように命じると、辰はぴたりと動きを止めて雪夜を見た。
それから肩を揺らして可笑しそうに笑った。
「悪ふざけが過ぎたな。聞き流してくれ」
嗤いながらそう言うと、辰はまた本に視線を戻す。
数頁読むと、辰は本を閉じてまたベッドに横たわった。
疲れさせてはいけない。彼も、自分に長居されるのは迷惑だろう。
そう思い、雪夜は椅子から立ち上がった。
何も言わずにベッドに背を向けて歩き出す。
背中に絡みつくような視線を感じていたが、あえて立ち止まらなかった。
「待て、高月」
呼び止められて、雪夜はぴたりと足を止める。
緩慢な動作で肩越しに辰を振り返り、なるべく感情を押し殺した顔を向ける。
「何だ?」
静かに問い返すと、辰はすこし躊躇ったようにポツリと言った。
「忙しい時はここに足を運ぶ必要はない。お前はお前の目的を追っていればいい」
「邪魔だと言うなら、来るのは控える」
雪夜は窺うように辰を見る。
辰は居心地悪そうに目を伏せると、寝返りを打ってこちらに背を向けた。
「いや……。邪魔とは思っていない」
壁に向かって辰は小さな声で答えた。
静かな部屋に響いた答えに頷くと、雪夜は「また来る」と言って部屋を出た。
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