第一話 友との再会、オペラの悲劇

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刀を手に、荒野を走りまわる。 怒号、銃声、悲鳴、爆発音、音の嵐が渦巻くのさえ、聞こえない。 ただ、目の前の敵を斬り伏せることだけがすべてだった。 折り重なる仲間の屍。荒れ果てた大地。 近いのに遠くに見える華奢な友の背中。守りたいと、願っていたはずなのに。 ああ、これはあの頃の夢か。 ぼんやりと覚醒し始めた意識の元、真田鈴助(さなだりんすけ)はうんざりとした。 もっと眠っていたい。己の怠惰な部分がそう思っていたけれど、起きないわけにはいかない。 こんな胸糞悪い夢、もう一秒だってみていたくないのだ。 目覚ましがなってもなかなか起きない鈴助だが、悪夢を見ればすぐに起きる。 忘れたい過去を、これ以上よび覚まさないためだ。 長い人生、覚えておいて損なことはたくさんある。 鈴助はだらしなく大きな欠伸を一つ漏らしてから起き上がった。 ねんのため、壁に掛けられた数字だけの質素なカレンダーを見る。 2121年(天啓71年)4月17日。 だいじょうぶ、ネオスとの戦争が終結したのは2116年9月で、もう5年も前の話だ。 戦場に行く必要も理由も今の自分にはない。 あたりまえのことを確認して、鈴助はほっと息をついた。 途端に、また欠伸が漏れる。 ウサギのようにふわふわしたプラチナブロンドの癖毛を掻き毟り、 鈴助は再び布団の中に潜り込んだ。 「ねみぃな、もう一眠りすっかな」 伸びをして目を閉じたその時、いきおいよく部屋の扉が開いた。 「もう、リンったらまだ寝てるの?早く起きて、朝ご飯食べちゃってよ」 よく通る鈴を転がすような声に、鈴助は耳を塞いだ。 聞こえないふりをして声の方に背を向けて、布団を巻き込んで丸まる。 しかし、相手は容赦なく鈴助を布団から引きはがした。 ごろんと転がって仰向けになった鈴助を、アクアマリンの大きな瞳が見詰める。 アッシュグレイのショートヘアをサラリと揺らして、助手のリイナが鈴助を覗き込んだ。 彼女は大変な美少女なのだが、口うるさいのがいかんともしがたい。 「ねえ、リンったら起きてってば。台所、片付かないでしょ」 唇を尖らせるリイナに鈴助は盛大に溜息を漏らした。
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