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朝食をすませ、陽炎堂のノブにかかっている札を営業中にした。
何でも屋、陽炎堂の営業開始だ。
鈴助の営む陽炎堂はあらゆる依頼を請け負う何でも屋で、
依頼内容は逃げたペット探しや浮気調査などのくだらないものから、
害獣退治や人探しなど幅広い。
客足はとても繁盛しているとは言い難く、一日に一人も客が来ない日もある。
それでも、リイナと鈴助が食べていくには十分なだけのもうけがある。
この不景気なご時世にありがたいことだ。
事務所には応接机とソファが部屋の真ん中に置いてあり、
奥に鈴助用の大きな事務机があるだけで、かなり殺風景だ。
花でも置いたら少しは華やかになるのかもしれないが、
水を変えるのが面倒だし、すぐに枯れる花を毎日飾るのは料金がかさむので、
今のところ花を飾る予定はない。
開店したものの、客はやってこなかった。
リイナは忙しそうに掃除したり、洗濯したりと動き回っているが、
鈴助は暇にあかして、来客用のソファに寝転がって目を瞑った。
昼ごはんを食べ終わっても、客はまだ一人も来客はない。
痺れをきらしたのか、鈴助の前に座って勉強をしていた京市がペンを置いた。
「鈴さん、いつもこんな暇な感じなんですか?こんなんで経営は大丈夫なんですか?」
不満げな顔で京市に言われて、鈴助はムッとした顔をする。
「ついこの間入ったばかりの新人が生意気だぜ。依頼で忙しい時期だってあるんだよ」
「そうはみえませんけど」
「四月は閑散期なんだよ。新生活で忙しいから、誰もわざわざ何でも屋なんかに足を運んだりしねーもんだ」
「そういうものですかね。まあ、ボランティアのつもりで来てますから、どんな経営状況だって別に構わないけど。こう暇だと退屈ですね」
「退屈は平和な証拠だ。たまにはゆったりしろよ」
「俺はそれでいいですけど、リイナさんは困るでしょう。ちゃんと稼ぎがないとバイト代だってでないでしょう。というか、リイナさんちゃんとバイト代もらってるんですか?」
本棚のファイルを整理していたリイナが手をとめて、京市を見る。
「私、タダでこの家に住ませてもらってるから。
バイト代なんてもらえなくても、まあ生活できればいいかな」
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