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人生快記録(ドタバタ奮闘記)第1章 帰郷1
「勝浦―。勝浦―。まもなく紀伊勝浦でございます。どなた様もお忘れ物の無いようご注意ください」。僕の名前は吉村 剛。もうすぐ31歳になる若者である。東京から名古屋までは新幹線の快適な旅だが、名古屋からは、がらんと変わり田舎への特急電車の独特の雰囲気と車内の空気、誰かの頭みたいに固い座席に4時間以上も乗りやっと今勝浦に着こうとしている。平成5年7月1日の夕方僕は夏の日差しの差し込むまだ明るい紀伊勝浦駅のホームに、ボストンバックとギターケースを手にし降り立った。今から約25年前の話である。その12年前に生意気に「俺はお前らとは、違うんだ。こんな田舎におれるか。」と意気込んで東京に夜行列車で向かった。若気の至りとも言おうか。確かに東京では刺激的なことばかりだった。東京中野の安アパートに住み新宿のド真ん中(いわば大都会のど真ん中)の大手レコード店で働き、尾崎 豊や現在大御所と言われているミュージシャンやバンド、歌手のデビュー当時にもリアルタイムで接し、またいろんな場所に行き、いろんな体験もした。本当に古臭い言い方だが青春真っただ中の12年間だった。高校までの僕とは180度変わって那智勝浦町に帰ってきた。自分でもわかる。人生観といえば大げさだが、生き方も全然変わった。一生これだけは貫くというものも手に入れた。だから何も怖くないとも思った。もちろん不器用さは変わらないかもしれない。ただ昔は出来ないとあきらめた
事が多かったが、俺にはできるという大きなプライドを身につけた。この大きなプライドが今後の僕の人生に傷をつけることになるのだが。ホームには誰も迎えに来ていなかった。僕は実家までの約10分の道のりを、「今晩は、久しぶりに、お母ちゃんのカツ丼たべれるなぁ」と思いながら、もくもくと歩いた。昨日「帰ったらまず、一番の好物だったかつ丼やなぁ」と思い電話でリクエストしておいた。「ただいま。帰ってきたよ。」「おう、剛か。おかえりよ。つかれてないか。」お父ちゃんが声をかけた。「たけちゃん、お帰り。かつ丼つくりやるさかね。いっぱい食べなさい。」台所に立ちお母ちゃんは、言った。
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