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第1話 未完成エクスマキナ
「おーい来賀ぁ! テメェに依頼が来てるぜーッ!」
「あー? 分かった今行くー」
マスターに呼ばれた瀬能来賀はボサッとした黒い髪を掻きながら、気怠げな眼差しを浮かべて自身を呼んだ人物の元へと歩く。
自身と同じハンターたちの喧騒を聞きながらこの歩く度に金属音が反響する鉄の床を歩き、来賀はカウンターバー越しに自身を呼んだマスターと対面する。
マスターは筋骨隆々の大男ではあるが顔には無数の傷跡があり、過去の戦いからかマスターの右腕は機械式の義手となっている。
そんなマスター相手に、来賀は自身の装備をマスターに見せるよう腕を広げて言った。
「ついさっき遭難した住民の救助を終えたばっかしなんだ。出来れば優し目な依頼だと助かるんだが」
そこには来賀が言う通り装備はボロボロで、彼の特徴であるギリー迷彩の服が所々解れていた。だが来賀のボロボロな衣装を見ても、マスターは一瞥しただけで依頼の内容を書かれた紙を手渡した。
「今回の依頼もお前さんが求める人助けの依頼ではあるが、残念ながら今度は結構危険な任務だ」
渡された依頼の紙を見て、来賀は眉をひそめた。
「おいおい、界蟲からの護衛依頼ぃ? 普通こう言うもんはバグレイヤー持ちが請け負うものだろう? 何だってバグレイヤーを持ってない俺に依頼が来るんだよ」
「依頼主の指名だからだよ。この依頼は研究者たちを車に乗せて界蟲から逃げるのがメインで、界蟲と討伐するハンターを求めてないんだよ」
「はぁ、つまり俺のドライビングテクニック目当てに?」
「まぁ有り体に言えばそうだな。おっと勿論他にも理由があるぜ? お前は界蟲を討伐しないで人助けをメインに動くハンターで、その依頼達成率が九割超えてる実績があるからな」
カウンターバーの下から持って来たワイン瓶を持ちながら理由を話すマスターに、来賀は妙な照れ臭さを感じて頬を掻く。
マスターとは来賀がハンターとなって十年もの長い付き合いがあるため、こうして久しぶりに褒められることに来賀は慣れていないのだ。
「よせよ褒めるんじゃねぇ、何を隠してあるのか勘繰るだろうが」
そう言って冗談を叩く来賀なのだがそんな来賀にマスターは不敵な笑みを浮かべてワインを透明感の無い無骨なコップに注げて、一気飲みをする。
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