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あちこち探し回ったが、見つからなかった。材料はあっても加工が必要な形状の物ばかりだった。そしてなによりも高価だった。 GBの洗浄剤などと同じように、荷車の部品を完全食と交換するために、交渉していけばよいのだとばかり考えていた。 しかしこの、都市からあぶれた郊外地区の市場では、荷車の部品などという都合のよいものが売っているはずはなかった。 でかい金属は、でかい、というだけで貴重であり、主に業務用として、まとめて高値で取り引きされている。無論、闇でだが。 あまりにも単純なことだ。俺の考え足らずだった。こんなことぐらいは冷静に考えれば、予想はできたはずなのに。 「くそっ!」 無性に腹がたった。俺は荷車を諦めた。そして (こうなったら、GBにぜんぶうちあけよう。一緒に逃げるしかない。始めからそうしていればよかったんだ!……) 「ちくしょう!」 いたずらに時を費やしたことが悔しかった。けれど腹は決まった。 (やるしかない、一刻もはやくGBと逃げるんだ!新天地だ!新天地へいこう!) いつ来ても空気は埃っぽく、老若男女が食物を求めて行き交い、金属の加工音や怒号や、得体の知れない鳴き声が飛び交う、じっとりとした人間臭い市場を離れ、俺はさっさとGBの元へ帰った。 歩きながら、新天地へ持っていくべき物を頭の中で整理していた。まだ使えそうなGBのパーツや部品、大切な工具、潤滑油や洗浄剤、農具、先日届いた種や苗、そしてこの、リュックに入った完全食。 俺とGBで手分けすれば、なんとか運べるかもしれない。ひとりでやろうとしていたことが、GBにうち明けることにし、ふたりでやると決めたとたん、目の前が急に開けた気がした。 雑木林へとつづく、丘の一本道を登りながら (この道を歩くのも最後になるなあ) などと考えて歩いていると、二本の轍が地面についていることに気づいた。それは、雑木林へと続いている。 人が通ることなど滅多にないこの道に、轍ができていること自体おかしなことだ。通ったとしても、せいぜい郵便夫か、完全食を配給する配達人ぐらいだ。そしてその両方とも二輪車両だ。 俺はイヤな予感がして、駆け出した。
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