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正午になった。
「おーいGB!」
GBとは、農業用ヒト型アンドロイドの通称だ。購入後、購入者の声紋と指紋を登録することを政府から義務づけられており、その登録を行わないと、アンドロイドは作動しないようにプログラムされている。
『はい御用でしょうか?』
土や堆肥で汚れたGBが、ドアを開けて突っ立っている。
俺のGBは、人工皮膚で覆う資金がなかったため、外骨格が剥き出しになっている。なおかつ、カラーリングもせず、防水塗装しか施していないから、いかにも合金ロボットという風格だ。
けれど人によっては、というより、都市に住む富裕層は、人間と見分けがつかないほどのアンドロイドを所有し、命名までされ、配属箇所によっては、人権を与えられているものまでいるらしい。真偽のほどは定かではないが、生体皮膚を使用しているものまであるといわれている。
「俺は、飯食うから、GBも休めよ」
『わかりましたありがとうございます』
そういってカクンと軽く頷き、畦に置いた、自分のロッキンチェアーに向かった。畦はいちばん陽当たりがよく、GBはそれに座り太陽光を浴びるのである。要するに太陽光で充電をするというわけだ。
「いただきます」
必ず手を合わせてから食べる。先の大戦で家族を失ったオレが、かろうじて覚えている、親から習った唯一の習慣だ。
真空パックの封を切ると、その中からは粘度の高い乳白色の液体がとろんと出てくる。これが完全食だ。一日に摂取すべき栄養素がすべて含まれているらしい。俺はこれだけを食べ続けてきた。
戦後、まだ幼かった俺は、親族の家に預けられた。そこで長い間、この完全食だけを与えられてきた。だからいまでも食べ続けることができるのである。
味も素っ気もないらしいが、栄養はたっぷり入っていて消化吸収にもよいらしい。これさえ摂取していれば、健康上は特に問題はなかった。
天候不順で不作のときや、鳥獣に畑を荒らされたりして食料難に陥ったときが、この完全食の出番だ。けれど、俺自身、何をするわけでもないから、空腹に対して鈍感になってもいる。
「ごちそうさま」
手を合わせ、食器を洗い、日光浴中のGBの様子を見に行った。
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