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GBは寝ていた。
呼吸や心音のないアンドロイドは、作動しているか否かという2つの状態だけで、生死を決められてしまう。俺の声紋と指紋でしか動かないGBは、もしかしたら、他人には無意味な存在なのかもしれない。
俺の足音に反応したGBは、モーター音をあくびのように鳴らし立ち上がった。いつも思うのだが、充電をした後のGBは、動作が軽快になっているような気がする。
『なにかご用ですか?』
「そろそろ作業をはじめよう」
『はいわかりました』
GBは再び鍬をもち、土壌を耕し始めた。だんだん遠退いていくGBの姿を眺めていた。
GBは、戦中に、戦闘用兵器として大量に生産されたアンドロイドの、いわば残兵だった。終戦後、政府はそれらすべてを一旦回収するよう軍部に命じた。そして大量に手元に残った残兵アンドロイドを、農業用アンドロイドへとプログラミングし直し、民間企業に格安で払い下げ、国内自給率の向上を国民に促した。
だがとうの昔に手遅れだった。戦前から若者の農業離れが深刻になっていたにも拘わらず、その対策に真剣に取り組んでこなかった、いきあたりばったりの政策が、ようやく問題としめ深刻化したのである。そしてなによりも、戦前に破綻しかけた一次産業に農業従事者の育成を求めても、帰ってくる物好きな若者などいなかったのである。
その混沌とした状態に目をつけたのが俺のような人間だった。土地を無償で手に入れ、農業用アンドロイドを格安で購入し、かつ、毎月15食分の完全食まで、かろうじて存続している農協から配給されている。つまらない贅沢さえ望まなければ、ただ生きてゆけるのである。
GBはひたすら土を掘り起こしていく。俺は、GBのメンテナンス用の、洗浄剤や潤滑油のストックがきれていることを思いだし、市場へ買いに行くことにした。
「おーいGB!ちょっとでかけてくるから、あとよろしくな!」
と、大声で叫ぶと、いつものようにGBは鍬を置き、巨きな図体をゆらし、一目散に俺の見送りに来ようとした。俺は
「いい!来なくていいから作業しろ!」
と命じた。するとGBはくるりと向きをかえ、また耕しはじめた。
GBは声の音量が会話用のみに固定されているため、遠くの声が聞こえても、大きな声で応えることはできない。だから、いちいち接近してから、返事をしようとするのだ。始めのうちは苛立ちもしたが、今となっては愛嬌になっていた。
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