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夜が明けた。 どこからが朝でどこからが夜か。そんなことは関係なかった。すくなくとも俺たちのような人間が住んでいる界隈では、日がのぼれば朝であり、沈めば夜だ。そしてその間が昼だ。 ここ旧郊外地区では、都市とは異なる時間が流れていた。だから異なる人間が住んでいるといえるのかもしれない。 『おはようございます』 「おはよう」 それでも挨拶は欠かしたことがない。毎朝先に動きだすのはいつもGBだ。すでに鍬まで持っている。 完全食を食べる準備をしていると、GBがそのままのこのこと部屋を出ていこうとした。 「GB!待った待った!」 扉の前で立ち止まり、くるりと振り返った。 「先におまえを洗浄しないとな」 『はいわかりましたよろしくおねがいします』 とGBはカクンと頷き、鍬を置き、テーブル上に仰向けになった。 外皮が貼ってあれば、洗車をするように水をぶっかけて洗い流し、拭き取るだけで済むのだろうが、GBは関節が剥き出しのため、汚れが細部にまで入り込んでいる可能性がある。 それが故障の原因になりかねない。だから、こまめにその汚れを取り除いてやらなければならないのである。 そのついでに、ボルトやナットのゆるみがないか?配線の断裂はないか?IC基板はしっかりと固定されているか?などを、チェックリストに照らし合わせ一つ一つチェックしていくのである。テヒタじいさんに習ったやり方だ。 「脚まわりがだいぶ汚れてるな、虫の死骸まで挟まってるよ」 暗がりでは見えなかったGBのヨゴレがよく見える。 『バックアップ完了しました、送電をオフにしてください』 「よし、やるか」 こうしてGBはしばらく仮死状態になる。その間に洗浄するのだ。 各パーツのカバーを外し、まず大きなゴミをつまはじいていく。細部の目立たないゴミは、テヒタじいさんから貰ったエアガンで吹き飛ばして取り除く。 それが終わったら、貴重な飲水で洗浄剤を希釈し、きれいな布切れで、表面についた汚れを拭き取っていく。関節などの可動部の隙間は特に入念に行う。 この作業を黙々と繰り返していると、部品の一つ一つが徐々に輝き始める。オレはこの瞬間がたまらなく好きだ。 そしてこの瞬間に必ず、洗車をしている父親の後ろ姿を思い出す。幼い頃の唯一の父親との記憶。オレは、その記憶を確かめるために、GBを丹念に洗っているのかもしれない。
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