人格統合のパラドックス

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これからの事を考えなければいけなかったが、 何故(なぜ)か彼女の横顔がちらつき、 考えに集中出来なかった。 考がまとまらないまま大して広くない施設内の事、既にシャワー室に到着していた。 シーカーが頭上でその到着を示すかの様に、 滞空(たいくう)していた。 洗面所には何故か鏡が無かった。 フォログラムミラーがあるので必要ないのだろう。 こんな何気ない所に元の世界との差異(さい)を感じる。 床には脱ぎ捨てられた服が散乱(さんらん)していた。 誰か入っているのか? これはまさか伝説の!? 入浴シーンに気づかず主人公が風呂場に 入って行くと(まこと)しやかに伝承される、 ボーナスステージじゃないのか? ここは神のご意志に、そんなご褒美(いや心遣(こころづか)い)に気付いてしまってはいけないだろう。 (あん)(じょう)、俺は記憶を削除(さくじょ)出来る主人公だ。 俺はそのまま何も気づかず風呂場に入ってしまう。 何故(なぜ)かただの入浴が凄く楽しみなのはきっと 気のせいだろう。 イッツ シャワー タイム!! そんな気分を台無しにする様に、 再び余震がやって来た。 同時に一斉に脱衣場の照明が落ちる。 何故このタイミングで!? 天はどこまで俺に試練を与えれば気がすむのか。 暗闇の中でいつのまにか揺れは(おさ)まっていた。 これは停電なのか? 一向(いっこう)に電気は復旧(ふっきゅう)(きざ)しを見せない。 「シーカー明かりをつけてくれ」 そう言うとシーカーは途端に点灯して、 辺りを照らし出した。 (あや)しく浮き上がる脱衣所はとても不気味な場所に 見えた。 俺は状況を確認するため廊下に出た。          ―125―
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