アクアリュームの亡霊

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  U字の壁に死角になった影に恐る恐る近付く。 そこには死角に隠れる様にして、 青銀髪の少女が裸で座り込んでいた。 その髪で全身を隠す(よう)にして。 「誰?」 俺は彼女に話しかける。 少女は俺の顔を見つめ立ち上がった。 それは10歳前後の幼女だった。 そして彼女は全裸だった。 ここが浴室なのを考えれば服を着ているほうが 不自然なのだが、何故か俺はその少女に 不自然さを感じていた。 「ノワールじゃないよな?」 誰なんだと言う疑問がそんな言葉となって出ていた。 少女はじっと俺を見つめていた。 言葉が通じてないのだろうか? そう思い始めた時、少女は口を開いた。 『やっと見つけてくれた』 その声は近くて遠い昔に聞いた様な響きがあった。 『待ってたんだよ』 (ずっと待ってたんだよ) 何故(なぜ)かその声に、 昔どこかで聞いた声が重なって聞こえた。 僕は唖然(あぜん)とそれを見つめ、 彼女はそれを真摯(しんし)に見つめかえした。 交錯(こうさく)する視線。 静かな()ぎの中で(ただよ)(よう)な瞳が、 じっとこちらを見つめていた。 その夜明け前の空の様な瞳に、 吸い込まれるような錯覚(さっかく)を覚えた。 俺は、はっと我にかえると、 少女が裸だった事に今更(いまさら)ながらに気がついた。 「ちょっと待ってて」 そう言うと俺はバスタオルを取りに走った。 脱衣所に戻って来てタオルを物色していると、 背後から視線を感じた。 反射的に振り返ると、 そこには全裸で(たたず)む彼女がいた。 少女は(ひと)(ごと)の様に語り始めた。 『閉じられた世界。  (ゆが)んだ時間軸(じかんじく)螺旋(らせん)。  アダムとイヴが閉じ込められた場所。  お兄ちゃんは閉じ込められたの。  私と共に永遠の楽園に。』 空の彼方(かなた)を写し出した様な瞳が、 ここではない何処(どこ)かを見つめていた。              ―126―
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