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? その昔、クレタ島に怪物がいた。
怪物は、頑強な肉体と、牛の顔を持っていた。
彼の名はアステリオス。
だが、彼がその名前で呼ばれることはほとんど無かった。
彼はミノタウロスと呼ばれた。
ミノタウロスはミノスの王子だった。
ミノタウロスはミノス王に嫌われていた。
牛の顔をした醜い王子をわが子とは思えず、嫌うのは当然だった。
ミノス王は何度も息子を殺そうと考えた。
だが、彼は王子という立場に生まれていた。
王の子殺しなどあってはならなかった。
そして、彼の妻パシバエも強く反対していた。
いかに醜かろうが、彼はパシバエが腹を痛めて産んだ子供だ。
パシバエが彼を嫌おうはずが無かった。
殺すこともままならず、いかに彼を始末しようかとミノス王が頭を悩ませ、十数年。
ミノタウロスは立派な青年になり、その力は人をはるかに凌ぐものとなっていた。
あるとき、ミノス王に耳打ちするものがいた。
「王子を戦場に送りなさい。王の子が先陣を切ったとあれば、兵たちは活気づきましょう。顔は牛のように強い力が宿るように牛の面をかぶせていると言って回りなさい。なに、戦場ではいつどこから矢が流れてくるかしれません。王子がお亡くなりになるのはいたしかたの無いことなのです」
王はこの話を良しとし、早速、次の戦からミノタウロスを戦場に送ることにした。
ミノタウロスに思ってもいない期待の言葉をかけ、彼をここぞとばかりアステリオスと呼び、酒まで酌み交わした。
ミノタウロスは喜んだ。
いままで、自分を嫌っていた父が、自分の名前を呼び、肩を抱き、酒を酌み交わし、「期待している」とまで言ってくれたのだ。嬉しくないわけが無かった。
しかし、何度戦に送り出しても、ミノタウロスは死ななかった。
その体は鋼のように硬く、剣も槍も弓矢もその薄皮一枚を切る程度しかできなかった。
逆にミノタウロスはミノス王から授かった両刃の大戦斧を振り回し、数多の敵兵をなぎ倒していった。
勝ち戦が続くにしたがって、兵たちは王子を頼り、戦の守護神などと言う者まで出てきた。
「話が違うではないか」
王はミノタウロスを戦に出せと言った家臣に言った。
王はミノタウロスが兵の信頼を集めていることが気に食わなかった。
このまま次の王をミノタウロスに……などという声が上がるのではないかと、身震いしていた。
ならば……と
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