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「ならば、次の戦に出した後で迷宮をお造りなさい。名工ダイダロスの力をもってすれば、必ずや抜け出すことのできぬ迷宮を作ることでございましょう。そこに王子……ミノタウロスを封印してしまうのです」
この言葉をうけて、ミノス王は凱旋の宴でミノタウロスの力がどれほどのものか見てやろうと思った。
酒を飲み、ほろ酔いのころに王がミノタウロスに話しかける。
「お前はたいそう力が強いそうではないか。我が子の成長、いささか見てみたいものよ。厚さの違う石の板をいくつか用意してみた。どこまで砕くことができるのか、酒の余興に見せてはくれまいか」
ミノタウロスは胸を叩いて受け、兵たちが運んでくる石の板をその拳で次々と破壊して見せた。
一枚、また一枚と砕くたびに、宴の場にいるもの達から「おお……」と歓声が上がる。
石の板がかなり厚く、もはや石の塊と呼ぶにふさわしいものになった頃、ミノタウロスは笑いながら言った。
「父上、さすがにいい加減拳が痛くなりました。ここいらで終いとさせて頂きたい」
そして宴は終わり、また次の戦への備えの時となった。
次の戦争も、ミノタウロスの活躍目覚しく、大勝利をおさめた。
ミノタウロスは敵からは牛頭の魔物と恐れられ、その姿が戦場に現れるだけで戦意を喪失させた。
国に帰ればまた勝利の宴。
王は上機嫌でミノタウロスに酒を勧め、ミノタウロスもまた、そんな王の勢いに飲まれるように酒を飲み、やがて深い眠りについてしまった。
目が覚めたとき、ミノタウロスは奇妙な部屋にいた。
四方に壁があり、空が小さく、四角く見えていた。
「誰かいないか!」
ミノタウロスの声は、部屋の中に空しくこだました。
「誰か!誰か!」
何度叫んでみても、はね返る自分の声以外、耳に入る音は何も無かった。
三日が過ぎた。
部屋を出て歩いてみたが、部屋の外には長い長い回廊があるだけ。
それも、複雑に絡み合い、どこを通ったのか分からなくなり、気がつくとはじめの部屋に戻っていた。
出口はどこにも無かった。
ミノタウロスは腹が減っていた。
三日間飲まず食わずで、死にそうだった。
それから更に三日が経った。
死にそうなほどに空腹で、死にそうなほどに喉が渇いた。
だが、彼は死ねなかった。
七日目に天井の穴から顔を見せたものがいた。
ミノス王だ。
王はいまだに生きているミノタウロスに少なからず驚いた。
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