第1章

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 その中でアリアドネはテセウスがアテナイの王子であること、迷宮の怪物を倒すために自ら望んで生贄になったことを聞いた。  アリアドネはなんとかテセウスにそのような危険なことは思いとどまるようにと言ったが、テセウスは頑として聞き入れなかった。  諦めたアリアドネは、ダイダロスから聞き出した迷宮の抜け方をテセウスに教え、ひとつの糸球と剣を渡した。  かくして生贄の順番はテセウスまで回ってきた。  迷宮の入り口に糸玉の端をくくりつけて、糸を伸ばしながら奥へ奥へと進んで行く。  糸球がもうなくなりそうな頃、テセウスは広間にたどり着いた。  部屋の奥には、天を衝くように立つ牛頭の化け物がいた。  それを見つけると、テセウスは、身を縮め「ひい」と悲鳴を上げた。  怯える生贄に油断して近づいてきたところを、一突きで倒してやろうと、テセウスは考えていた。 「怯えるふりなどよせ」  ミノタウロスは部屋の真ん中にあぐらをかき、静かに言った。 「おまえ、俺を殺しに来たのだろう?いいとも。お前に殺されてやろう。だがその前に、俺の話を聞いてゆけ。なに、つまらぬ愚痴よ」  ミノタウロスの呼びかけにテセウスは応じ、座るミノタウロスの前に立った。
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