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Prologue
僕は奈月の行方を知らない。
本当に、何も…。
ガツンと大きな音が立った。自分が立てたのは分かっている。???頭が。
「どこまで吐かん気や!」
尋常じゃないほどの、机にぶつかる音と声の圧力。放課後に温存してあった体力を、一瞬にして使い果たした気がした。
「何も言うてへんわコイツ。口に唐辛子でも入れたろか」
どこに行ったら唐辛子もらえるんだ。ここ教室じゃないか。そう思った瞬間に笑いがこみ上げた。こんな奴に虐げられている自分が可笑しい。もっと上等な脅し文句使えよ、低能め。
「知らんものは知らん。無駄に手ェ痛めてご愁傷様」
「はァ?」
言うなり、僕は思い切り関西弁兄弟の急所を蹴った。二人が怯んだ隙に廊下に逃げる。このやろう無駄な時間を使わせおって。僕はさっさと下駄箱で靴を履き替え、帰り道を急いだ。頭の骨が、まだきりきりと痛んでいる。
僕は何も知らない。知りたいんだ。
ついにリンチが始まってしまった。まだ担任は気付いていない。
特に目の敵にしてくるのは先ほどの関西弁兄弟である。元々ガキ大将の素質があったのか、それとも浪速の血か、転校してくるなり二人は校内で大きな発言力を持つようになった。そこにあの事件があれば、言ってみれば当然の成り行きだったのかもしれない。
奈月が失踪したのは五日前のことだ。
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