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 僕への風当たりは強くなるばかりだった。部活も白い目で監視されていればやりづらい。当然ミスも多くなると直感した。だから部活は休んでいる。  その代わり、奈月の家を訪れるようになった。手土産でおかずをいくつか持って行く。母には事情を説明していないが、分からないなりに協力してくれてはいる。  次第にジンジンと変わっていく頭の痛みを抱えながら、僕は奈月の家に走った。感覚からして血は出ていない。かさぶたでもできよう物なら、血がゴキブリよりも苦手な母が黙っていない。鏡の前に立ちたいという焦りも、僕の足を急がせる。 「奈月のおばあちゃん、来たよ」 「リョウくんやな?」 「そうやー。トイレ借りるでー」  この一週間足らずで、僕は随分大阪弁に染まったらしい。 「使いやー」  手を拭いて、まだ痛む辺りの髪をどけてみる。特に血の跡はなかった。 「ご飯持ってきたで」 「おおきにな、お菓子あるで」  お菓子をもらう前に、台所で昨日のタッパーを確認する。よし。全ての容器が空っぽだ。おばあちゃん、食欲だけは衰えないんだな。ついでに唐辛子の瓶を見つけて先ほどの景色が浮かんだ。  溜まった箸と持って帰るタッパーを洗い、夕飯以降のご飯を炊飯器にセットする。タイマーをかけたから夕飯時には食べられるだろう。ここまでは来たら必ずやることにしている。が…。あれは何だ。  ベージュ色の布たちが洗濯かごから溢れ出している。 「洗濯かーー」  叫んで、僕の首がポキリと落ちた。…もちろん比喩です。 「どうしたん」 「奈月のおばあちゃん、洗濯困ってるやろ」 「…そうやなあ」  まるで頼まれているような口ぶりに聞こえる。仮にも女の洗濯を俺がするのか…。
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