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事件かもしれないということは、さすがに口に出せない。担任も考えているはずだ。
「稲田の祖母が捜索願出してくれればいいんだがな」
「え?出しとらんの?」
「あのご老体じゃ、警察まで行けるかどうか」
「ああ」
奈月の両親は仕事の関係で海外に住んでいるから、同居しているのは祖母だけだ。以前訪れた時は杖をついていた。奈月によれば少々アルツハイマーの兆しもあるというから厄介だ。
「とりあえず、宮下が探してくれないか」
「いいけど」
「一日二日で戻って来なければ捜索願だな」
「奈月…」
思わず溜息が漏れた。
僕は二日ほど、放課後に部活を休んで聞き込みをした。刑事ドラマを思い出して奈月の写真を持っていったが、目撃者は皆無だった。
一方の担任は奈月の祖母に捜索願の提出を勧めたが、彼女は頑としてそれを受け入れなかった。理由を聞いても、訳の分からない単語を繰り返すばかりで埒があかないらしい。
次第に、疑いの矛先は僕に向きつつあった。
「奈月、今日も来んなあ」
朝のHR終わり、ふとつぶやくと関西弁兄弟の兄が絡んで来た。
「どこで何しとるんやアイツ、このクッソ寒い時に凍えたらどうすんねん」
「そうやな」
いや、あんたに心配される筋合いがどこにあるんだ。いつも奈月と喋りもしないくせに。
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