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「どうせ暇やし、こっち整理しときますわ」  アルツハイマーだとこんなことになるわけか。反論を全て諦めたら、苛立ちも少し収まった。僕の祖父母で生きているのは一人だけだが、もう施設に入っているので全く会っていない。たまにニュースで、高齢化や認知症を問題提起している映像を聞き流すだけである。  僕はとりあえずゴミと洗い物を仕分けした。ゴミの種類や量からして、奈月がいない間にたまったものだろう。いなくなった日の夜から三日、一日三食だとすると数が合う。  まさかこれほどだとは思わなかった。これなら、奈月が家出してもおかしくないかもしれない。「おおきになあ」とばかり繰り返す彼女が、少しかわいそうになった。  そのうち人の笑い声が聞こえてきた。彼女はテレビを点けたらしい。 「俺にやらせといて…」  思わず毒が出た。しまった。自分が言い出したんだった。相手はアルツハイマーのおばあちゃんだった。聞こえていないかとリビングを見やるが、全く気づいていないようでリモコンを操作している。笑い声がブツリとストリングスの音に変わった。いいBGMだ。  ふと時計を見ると、学校を出てから2時間が経っていた。ヤバい、そろそろ帰らないと。 「あの、片付けもうすぐで終わるんですけど」 「…居たんか」  その一言でがっくりとくる。このおばあちゃんに罪はないんだ。しょうがないか。 「終わったら帰ります」 「おおきにな」  最後、彼女はその言葉を繰り返しながら送り出してくれた。
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