忘れ「もの」

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君は覚えているかな? あの日あの時、君に片時も離れず抱かれてたあのぬいぐるみ。 君は僕のことをいつも大事そうに抱っこしていたね。 でもいつからかな? 君はその存在を忘れてしまった。 君は覚えている? 僕を忘れてしまった日を…。 僕だって覚えていない。 僕だっていつからここにいるのかさっぱりわからない。 気が付いたら僕は押し入れの中さ。 真っ暗だよ。終わりの来ない永遠の夜。 でも、僕はぬいぐるみ。 君たち人間のように光がないと生きていけないわけじゃない。 真っ暗だってなんだって僕にとってはなんてことはない。 ただ唯一、欲をいうならもうちょっと整理してほしいかな? いろんなものと一緒に押し込まれてるから身動きが取れないんだ…。 ちょっと頭を動かすだけですぐ怒られるんだから。 ……あはは、ごめんなさい。 ほらね、怒られた。 今、僕のことを怒ったのは僕と同じように忘れられたもの。 でも、僕よりずっと前からここにいるんだって。 僕にとって先輩みたいな存在。 寂しさはないよ? 僕は人間じゃないから寂しいとかそういうのは全くないんだ。 まぁ、人肌のぬくもりが懐かしくはあるけどね。 そういえば、あったかいとか最近感じてないなぁ…。 暑いって感じたことは何度かあるけど。 そういえば先輩が言っていたよ。 僕みたいな存在を付喪神っていうんだって。 先輩も自分は付喪神なんだって。 忘れられたものがまた使って欲しくて命が宿るんだってさ。 でも、僕は使って欲しいとかそういうのは無いなぁ…。 あ、でも抱いてほしい。 強く強くぎゅ~って抱きしめてほしい。 そうすればまた君にぬくもりを与えてあげられるし、僕もあったかくなるし一石二鳥じゃない? それに今の僕なら君の言葉もわかる。 同情することだって出来る。 君が寂しければそっと寄り添ってあげる。 君が悲しければ慰めてあげる。 君がうれしければ僕も一緒に笑ってあげる。 君が誇らしくなれば僕も誇らしい。
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