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新次郎が立ち去ろうとしたとき、
「待て」
ホイットニーは新次郎を呼び止めた。そして再び口を開く。
「料金が……」
とホイットニー言ったその刹那、セーファスがとっさにその口を右手で塞いだ。
「大長老。ちょっとは考えてください。あんなボロボロの子からお金をむしり取るつもりですか?」
ホイットニーがじたばたともがく中で、セーファスはホイットニーの耳元でそうささやいた。
「ごめんなさいね。新次郎さん。お代は今日は結構なんですけど、こちらにサインをお願いできますかね?それと、お父さんがお母さんのサインがここに欲しいんですよ。契約書です。あ、今回新次郎さんやおうちの方からはお金は貰いませんからね。そのことも書いてありますよ」
セーファスはそうにこやかな顔で言うと、ボールペンを新次郎に差し出した。新次郎はボールペンを走らせ、署名を終わらせた。
「ではこちら、おうちの方に見せてくださいね」
セーファスはそう言って新次郎に契約書を渡した。新次郎はそれをボロボロの鞄にしまうと、とぼとぼと転職相談所をあとにした。
「大丈夫ですかね?あの子……」
「大丈夫じゃわい。ワシのスペシャルメニューじゃからの」
ホイットニーはそう言うとそそくさと給湯室へと戻り、テレビのスイッチをつける。テレビには十手を持った岡っ引きが映し出された。岡っ引きは逃げる悪者に寛永通宝と書かれた銅銭を投げつけ、見事悪者を召し捕った。
「やっぱりええのォ。時代劇は」
ホイットニーがそう笑いながら言う中で、セーファスは静かにため息をついた。
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