知音 ~ I know you melody ~

2/22
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
プロローグ  「ぼく、やっぱりやだよ!ピアノなんか習いたくないっ!」 「ここまで来て、ママを困らせないで、こーちゃん!今日からピアノを習うって約束したでしょ?さあ、入るわよ!」 『高坂ピアノ教室』 グランドピアノをかたどった看板がかけられた、おしゃれな洋館の門の前。 ここから先は、絶対一歩も進むもんか! 幼稚園服を着た小さな男の子が、口を真一文字に固く引き結んで仁王立ちし、ピクリとも動かない。母親は、ほとほと困り切った顔で、息子を見下ろして立ち尽くしている。 「こーちゃん、先生も待ってるから、早く行くわよ!」 「やだ!どうせ習うなら、サッカーの方がいい!」 「じゃあ、サッカーもやっていいから、ピアノも、ね?」 「サッカーはやるけど、ピアノはやらない!」 「こーちゃん!いい加減にしなさい!ママ、本気で怒るからね!」  たまりかねた母親が声を荒げ、男の子はビクっと体を震わせた。くっきりとした二重瞼の大きなチョコレート色の瞳に、みるみるうちに大粒の涙が溜まり出す。 「ふええーんっ!ママなんか大キライだあ!ピアノも大っ嫌いだあ!」 「ああっ、泣かないで!ごめんね、こーちゃん、ママが悪かったから!」 「ふえーんっ!やだやだやだっ!帰るぅ~、もうぼく、おうちに帰るぅー!」 大泣きする男の子の前で、母親が途方に暮れ、もう諦めて連れて帰ろうとした時だった。 ヒラヒラ、ヒラヒラ。ヒラヒラ、ヒラヒラ。 白い紙ヒコーキが飛んできて、ふわり、男の子の足もとに不時着した。びっくりした男の子は、一気に涙も引っ込んで、しゃがみこんで紙ヒコーキを拾い上げた。  いったい、どこから飛んできたんだろ? 男の子が立ち上がって顔を上げると…
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!