1人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
プロローグ
「ぼく、やっぱりやだよ!ピアノなんか習いたくないっ!」
「ここまで来て、ママを困らせないで、こーちゃん!今日からピアノを習うって約束したでしょ?さあ、入るわよ!」
『高坂ピアノ教室』
グランドピアノをかたどった看板がかけられた、おしゃれな洋館の門の前。
ここから先は、絶対一歩も進むもんか!
幼稚園服を着た小さな男の子が、口を真一文字に固く引き結んで仁王立ちし、ピクリとも動かない。母親は、ほとほと困り切った顔で、息子を見下ろして立ち尽くしている。
「こーちゃん、先生も待ってるから、早く行くわよ!」
「やだ!どうせ習うなら、サッカーの方がいい!」
「じゃあ、サッカーもやっていいから、ピアノも、ね?」
「サッカーはやるけど、ピアノはやらない!」
「こーちゃん!いい加減にしなさい!ママ、本気で怒るからね!」
たまりかねた母親が声を荒げ、男の子はビクっと体を震わせた。くっきりとした二重瞼の大きなチョコレート色の瞳に、みるみるうちに大粒の涙が溜まり出す。
「ふええーんっ!ママなんか大キライだあ!ピアノも大っ嫌いだあ!」
「ああっ、泣かないで!ごめんね、こーちゃん、ママが悪かったから!」
「ふえーんっ!やだやだやだっ!帰るぅ~、もうぼく、おうちに帰るぅー!」
大泣きする男の子の前で、母親が途方に暮れ、もう諦めて連れて帰ろうとした時だった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ。ヒラヒラ、ヒラヒラ。
白い紙ヒコーキが飛んできて、ふわり、男の子の足もとに不時着した。びっくりした男の子は、一気に涙も引っ込んで、しゃがみこんで紙ヒコーキを拾い上げた。
いったい、どこから飛んできたんだろ?
男の子が立ち上がって顔を上げると…
最初のコメントを投稿しよう!