1人が本棚に入れています
本棚に追加
――千景っていい匂いするよな。
授業中ずっと、その井原の言葉が、頭の中に響いていた。
井原の体温が制服越しに伝わってくるんじゃないかと思うくらい、急にすぐ隣にいることを意識してしまっていた。
香水もヘアコロンも付けられない私の匂い。
何もつけていない、私そのままの匂い。
井原がいい匂いって言ってくれるなら、もしかしたら、そのままでいいのかもしれない。
「ほんのちょっとだけでも付けられないの? かわいそう」
奈々が、新作の香水を持って来ても、私は少しだけ自信をもって答えられるようになった。
「私はつけなくていいの」
つけられない、じゃなくて、つけなくていい。
だって、私のそのままの匂いを、隣の井原はいいって言ってくれたから。
最初のコメントを投稿しよう!