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 クラスメイトたちは、いつもいい匂いをさせている。側を通ったときにさりげなく香るくらいなら、私も頭が痛くならずに「いい匂い」と感じられて、だからこそうらやましくなる。 「千景も少しだけつけてみたら。これ、今年夏の新作なんだ」  友達の奈々は、可愛い瓶をふりながら嬉しそうに言った。爽やかで花みたいな香りが広がる。  つけてみたいという気持ちにあらがって、ため息をつきながら首をふる。 「私はつけられないから」  奈々が髪を払いながら歩くだけで、廊下ですれ違う男子たちはざわざわする。 「女子っぽい匂いがする」 「いい匂いだよな」  その男子グループの中には、隣の席の井原もいた。  奈々の匂いはただの香水で、彼女自身の香りじゃないのに、とほんの少しだけ悔しくなる。  私だって、あの香水をつけさえすれば、女子っぽさは奈々と変わらない。簡単に、いい匂いをさせられる。  だけどそれは、私にはかなわない。
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