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 兄はなかなか話そうとせず、どこか余所余所しい感じだった。「どうしたの?」と少年が声を掛けると、照れたような、興奮したような様子で話し出す。いつもと違う雰囲気に少年は少し恐怖を感じる。兄の手元には半分ほど減っている酒のグラス。酔っているのか、と少年は無理矢理自分を納得させる。  そのうちに、兄は少年に対し、本当の思いを告げる。本当は少年を一人にさせたくないこと、離れたくないこと。少年に対する思いが時々、度を越えているのではないかと恐れていること。  機械人形ではないかと少年は疑う。でも思いを打ち明けている兄はお酒を煽っている。薄暗い店内ではわかりづらいが、顔も赤くほてっている気がする。飲食が出来ず、体温もない機械人形ではないと判断する。  兄は泣きそうな表情。少年とお揃いの泣きぼくろがゆがむ。少年は正直な兄の気持ちを知り、うれしく思っていることを伝える。自分も同じ気持ちであること。最初に感じた恐れは既に消え、二人の世界。兄にもっと触れたい、という。少年が手を伸ばす。兄は悲痛な表情。触れることはできない、と寸前でかわす。  バーカウンタの店員が兄に「時間」であることを告げ、兄が立ち去る。余韻に浸っていると、女生徒が現れる。本音で話すことができたか、と尋ねる。少年は上の空で、少し考えたいという。
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