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 雨季が過ぎ、あっという間に夏がやってくる。女生徒とは相変わらず、ノートを見せ、他愛のない話をする仲であったが、二人の中で人形屋のことが話題に出ることはなかった。受験勉強に追われ、人形屋のことも忘れかけていた。兄とも変わらず、あの夜以来、まともに話したことはなく、つかず離れずの距離。  試験終了の合図。ざわつく教室内。うなだれる女生徒。試験の出来を言い合う。普通の学生の日常。  学習塾。試験の解説を教師がしている。授業が終わり、他の生徒に交じって雑居ビルから出てくる少年。突然つかまれる腕。驚き、見上げると兄の顔。兄は無言で少年を車へと連れていく。  いつもと違う雰囲気に少し戸惑いながらも特に疑いはせず、迎えに来てくれてありがとう、という少年。迎えに来るという連絡はなく、迎えに来ることが初めてであったので、何があったのかと少し気にはする。  車に乗り込むと兄にキスをされる。驚く少年。理解が追い付かない。兄は「ごめん」と一言謝るだけ。  収まらない鼓動の高鳴り。発進する車。暑いのは気温だけのせいではないはず。むくむくと再び燃え上がる欲望。もう一度、兄とキスをしたいと思う。  車内は無言で、車のエンジン音だけが響く。やがて車は少年の知らないマンションへ入る。知らぬ間に車は停止し、兄に導かれるまま夢心地で部屋へと導かれる。部屋の扉が閉まり、電気をつける暇もなく再び降りてくる口づけ。少年はここで、体温のない機械人形であると気づく。しかし、兄の機械人形が作れるはずがないと戸惑う。どの程度の情報量で機械人形を作ることができるのかわからないけれど、どうやって作ったのだろうかと。  用意された白い綺麗なベッドへ倒れこむ。抱きしめあう二人。兄は前にも見せたあの泣きそうな表情。泣きぼくろがゆがむ。少年は理性と欲望の間で闘う。この兄は本物の兄ではないと、作り物であると言い聞かせる。しかし、手に触れる肌の感触は生々しく、抱きしめられる度に感じる冷たさが少年の心に痛みと喜びを落とす。愛を囁く偽物の兄。その声が少年の好きな兄とそっくりであることに驚く。欲望に身を落としそうになる。
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