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「煙を肺にいれてないから大丈夫。未成年ってところは大目にみて。あと三年もすれば二十歳なんだし」
「北方がこんなに素行が悪いなんて知らなかった。まんまと騙されていたよ」
「小夜子でいいよ」
「じゃあ、私も麻美でいい」
私の言葉はぐらかされてばかりだけれども、小夜子の表情は教室で見るそれより、生き生きとしている。きっとこれが素顔なのだろうな、と思った。しかしあのお堅い委員長が、こんなひとだとは。幻滅する男子も多いのではないのかな。俄かには信じられない小夜子の本性に、私はため息をついた。
「一服できたし、私は教室に戻るわ」
小夜子は制服についた砂ぼこりを落とし、私の前から颯爽と姿を消した。私は思わず、桜の木の幹を叩いた。なんて嫌なヤツ!
「北方さん、貧血の方は大丈夫?」
「ええ、保健室で休んだら少し楽になったわ。心配してくれてありがとう」
小夜子の周りには、クラスのなかでも優等生と言われる取り巻きがいる。私は思わず吹き出しそうになった。知っている? 小夜子の制服のポケットには煙草とライターがあるのよ、と言ったらどうなるのだろうか。私が変なやつ扱いされるだけかもしれないけれど。
「麻美ー! またサボったの?」
大声で友だちが言うと、教室に小さな笑いが起こった。
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