散る散る満ちる、満ちる散る

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散る散る満ちる、満ちる散る

 夏のじりじりと焼けつくような日差しは違っていて、秋の陽はからりとしている。空が高くなってきたなあ、と私は見上げて思った。制服のポケットにスマートフォンを忍ばせ、こっそりと学校の裏門を出る。そこから細い道を通って、三分。私の最近できたお気に入りの場所に目指してゆっくりと歩いた。  その場所には桜の老木がある。所どころ割れている、ざらりとしたその木の幹、枝は長く、地面につきそうなほど長いものだった。授業をサボタージュし、その桜の下で寝転んで音楽を聴きながら、ぼんやりと過ごす時間が私は好きだ。お昼過ぎの微睡みを誘う時間。こんなに綺麗な秋晴れの日に授業なんて受けてられない。さて、何を聴こう。イヤホンをさし、私は携帯電話をいじる。そして目を上げると、先客がいることに気がついた。しかも意外な人物だ。 「委員長?」  私は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。私のクラスの委員長が木陰に座っている。しかも煙草を吸いながら。 「ああ、阿部さんか」 「何しているの?」 「見ての通り」 「いやいやいや、そういう意味じゃなくて」     
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