散る散る満ちる、満ちる散る

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 私は少し胸のうちがざわついた。小夜子の恋の話を聞くとイライラするのはなぜだろうか、と私は再び自分に問うたが、また思考に霞がかかる。 「髪に、花びらが付いているよ」  小夜子の手が私の髪に触れようと伸ばされたと思ったら、私はくちびるに柔らかい感触を覚えた。瞠目すると小夜子の閉じられた目と、長い睫毛が視界に入った。ああ、これがキスというものか、と私は驚いて逆に冷静になっていた。 「絶対あなたを惚れさせてみせるんだからね」  小夜子はそう言ってほほ笑むと、颯爽とその場から走り去った。私は思わず笑ってしまった。小夜子の恋愛事情でもやもやする必要なんてないんだ。私は安堵で桜の木の幹に身体を預けた。私たちの手には新しい「秘密」が握られていた。大胆なヤツ! そしてなんて愛おしいヤツ! と私は心の中で叫んでみた。
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