散る散る満ちる、満ちる散る

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 小夜子は品行方正、才色兼備を絵に描いたような人物だ。校則破りの私とは全く違う。スカート丈は規則通りに、化粧もせず、長い黒髪は固く三つ編みにしている。背筋を正して教室の椅子に座っているその姿は、さながら深窓の令嬢と言ったところ。男子は小夜子に高嶺の花という憧れを抱き、女子は羨望の眼差しを送る。かと言って小夜子は頭が固いわけではない。勉強ができることを振りかざしたりせずに、どちらかというと明るい。いつも取り巻きに笑顔で対応している。品よく明るい。そんな彼女に好感を抱くのは男子だけではなかった。小夜子の擬態はパーフェクトだ。教師さえも聞き入る流麗な英語の発音。私は姿勢よく立っている小夜子の後ろ姿を見つめる。私は小夜子のことを何が楽しくて女子高生をやっているのかわからない、ロボットみたいな人間だと思っていた。何事にも正しく平等で、そつなくこなす姿に、私は反感があった。しかし桜の木の下で見た小夜子 は人間らしさがあり、性格は悪いが、よほど人間味がある。そんな彼女に少なからず好感を持った。  小夜子は身体が弱いという「設定」がある。よく貧血になり、目眩を起こすという設定。しかし本人は至って健康体だ。少しだけ授業から抜け、一服してまた教室に戻るという器用なことをしている。なぜそんなことができるかというと、保健室に来た証明書となる紙をコピーして大量に持っているからだ。  そして今日も桜の木の下で寝そべっている私の元に、小夜子は来た。 「頭が良すぎるっていうのも困りものだよ。保健室に行っていないってばれたらどうすんのよ」 「三回に一回は本当に保健室に行っているから、問題ないでしょう」  そう小夜子は言ってのけて、煙草に火を点けた。私はため息をついた。 「あら、秋だから悩み事でもあるの?」 「違う。心のそこから小夜子に呆れているの」  小夜子は左の口角だけ器用にあげて、笑ってみせた。そして煙を器用に輪にして吐き出す。 「なんで煙草を吸っているの?」 「ひみつ」  私は素朴な疑問を投げかけると、小夜子は少しだけ険しい顔をした。 「もう私たちの間に『秘密』にする事なんてないでしょ」 「確かにそうだね」     
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