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「まあ、麻美には言ってもいいか。好きなひとがこの銘柄を吸っているから」
「へえ。どんなひとなの?」
「赤い口紅が似合うひと」
私は無粋にも小夜子の言葉を聞き返しそうだった。そしてすぐ気まずくなり、開いたままの口を閉じた。私には知識はほとんどないけれども、細く巻かれたその煙草からはいつも少しだけ甘い香りを漂わせていた。きっと口紅だけじゃなく、赤いネイルも似合うだろう女性を容易に想像できた。私は少しの沈黙を破り、小夜子に言う。
「見た目以外も教えて」
「恥ずかしながらも、私の擬態を初めて見抜いたひと」
「それは納得だわ」
「どういう意味よ」
「だってさ、あんたの偽装は男なんかにはわかりっこないもん。賢くて、察しの良い大人の女性なら、小夜子のことは見抜けるかもなって思った」
「それは暗に私が子どもだって言いたいの?」
「高校生はまだ子どもでしょ」
「確かにね」
小夜子はシニカルに笑ってみせた。
私は雲を見つめていると、桜の木から赤い葉が落ちてくる。桜の紅葉は早い。冬になったら、コートなしでは、ここには立っていられないだろう。そしたら小夜子はどこで煙草を吸うのだろうか。私はわからないまま、曖昧に時間は過ぎ、秋は深くなっていく。
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