ユニバーサル・インターフェイス

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 バーボンを飲み込み、私はため息をついた。新人漫画家の私は限界を迎えていた。新作を描いてはみてもことごとく担当からボツを食らっている。コマの画像は思い浮かぶのだが物語が浮かんでこない状態がずっと続いている。私は困り果てる状態を越え酒に頼る日々を送るようになっていた。酔っている間は少なくとも頭の中は桜満開だ。その酒を買う金が親からの仕送りであるとしてそれがどうしたというのだ?  夜の十時すぎだった。チャイムが鳴り、玄関に行くとドアの向こうから「夜分にすみません。お仕事の話で伺いました」と女の声がした。ドアを開けるとショートヘアーの金髪が目立つ細身の女が立っていた。こういう者です、と言って女は名刺を差し出す。受け取って見てみると〈秘書 田中ユイカ〉と記され、下に携帯番号があり情報はそれだけだ。私は不審に思い「会社の名前がありませんが」と訊く。「匿名で貴方の支援がしたいということなんです。社長が貴方のファンでスポンサーになりたいと考えておりまして」  とりあえず玄関に通して話を聞くことにした。 「うますぎるお話に聞こえますね」「とはいえ条件があります。社長個人のためだけに一作描いてほしいのです。着手金を100万。出来上がれば200万のお礼を用意しています」女はバッグから札束を取り出し、それを私に無造作に渡した。「お確かめください。この依頼は貴方の貴重な時間を奪ってしまうのでゆっくり考えて貰ってけっこうです。三日待ちます」現金は見たところ本物だった。私は考えもなくこの依頼に飛びついた。「いや、わかりました。やります。…期限とか枚数のご希望があれば」「では期限だけ。一ヶ月でお願いします」  
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