ユニバーサル・インターフェイス

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 簡易な領収書にサインすると女は私にお守りをくれた。少々ふくらんでいて厚みがあるお守りで、それ以外は見た目普通なのだが変に重い。ずっしりと。「普通は御札ですけどこれは石が入ってます」にしても重い。缶コーヒー二個分はありそうな重さである。「開けないで下さいね」「何の石なんですか」「地元に霊峰がありまして…頂上、中腹、麓に祠があるのですが、私はその祠を管理する一族の出身なんです。頂上の石なんですよ」「石の持ち出しは禁じられているのでは?」「ですから特別の許可を得て持ち出した石なんです。故に危険でもあります。邪心を向けてはなりません。邪心がなければ幸運をもたらします」  その夜から…正確には零時を過ぎてから、私の中で理解し難い変化が起こった。アイデアが、コマのシーンの連続が、ページの構図全体が、断片的なストーリーが、頭の中のさらに奥から湧き出てきた。おそろしくゆっくりだが着実に、洞窟の天井からぽとりぽとりと水滴が落ちて氷の柱を作るみたいに、奥から滲み出てきた。女の言葉通り、お守りは本当に幸運をもたらしていた。  二十八日後。依頼の仕事は仕上がりを迎えた。異界に呼ばれた主人公が化け物を倒していきその勝利のひとつ一つが現実世界の人間関係を修復してゆく漫画を描き終えた。最初に作る構成の苦労はあったものの、常人のままで作業を終えたのは驚きだった。いつも描き終えると廃人になるのがお決まりなのだが。  
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