キズナバコ

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キズナバコ

 ざく。ざく。ざく。  田舎町の小学校の校庭の隅、咲き誇る夜桜の下で、男が一心に穴を掘っている。ひざまずいた男の頭にも背中にも、花びらが舞い降りる。古びた外灯の薄暗い光のもと、仰ぎ見て感嘆する者が誰もいなくても、桜は惜しげもなくはらはらと散り続けている。  ざく。ざく。ざく。  静かな校庭に、土を掘る音が響く。  取り憑かれたかのように木の根元を掘り続けていた男は、ふと手を止め、あの頃を想った。母と祖父と三人で暮らしていた頃。貧しかったけれど幸せだった。母が失踪した後も、寂しかったけれど不幸ではなかった。  今の自分は、確実に不幸だ。
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