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「特別。目一杯。優奈ちゃんのことを女の子扱いしてあげる」
頭のてっぺんから髪の先まで。大きな手で、包み込むみたいに撫でられて。
「だから、もう少し、俺のことを男扱いしてね」
低くて、静かな。いつもとは全然違う夏樹の声に、え、と思う。
でも、それも一瞬のこと。
「――はい、できた!」
ポン、と手を叩く音に心臓が跳ねる。
「鏡、持ってる?」
「……ううん」
「じゃあ、教室行ったら友達に借りてね。俺の力作だから」
振り返ると、そこにはにっこりと人懐っこい笑顔を浮かべた夏樹の顔があった。いつもどおりの笑顔だ。
「うん、ありがとう!」
その笑顔につられて頷くと、夏樹はさらに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
――気のせい、かな。
まだ少しドキドキしている心臓をそっと押さえながら、ベンチから立ち上がる。そろそろ予鈴のチャイムがなるはずだ。校舎の壁に掛かっている大きな時計を見上げると、
「明日もここで、二人で会いたいな」
また、低くて、静かな夏樹の声。
「優奈ちゃんの髪、明日も結ってあげる」
慌てて振り返ると、そこにはいつもの人懐っこい笑顔と声の夏樹がいた。
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