かまう人。

10/11
前へ
/11ページ
次へ
「特別。目一杯。優奈ちゃんのことを女の子扱いしてあげる」  頭のてっぺんから髪の先まで。大きな手で、包み込むみたいに撫でられて。 「だから、もう少し、俺のことを男扱いしてね」  低くて、静かな。いつもとは全然違う夏樹の声に、え、と思う。  でも、それも一瞬のこと。 「――はい、できた!」  ポン、と手を叩く音に心臓が跳ねる。 「鏡、持ってる?」 「……ううん」 「じゃあ、教室行ったら友達に借りてね。俺の力作だから」  振り返ると、そこにはにっこりと人懐っこい笑顔を浮かべた夏樹の顔があった。いつもどおりの笑顔だ。 「うん、ありがとう!」  その笑顔につられて頷くと、夏樹はさらに嬉しそうな笑顔を浮かべた。  ――気のせい、かな。  まだ少しドキドキしている心臓をそっと押さえながら、ベンチから立ち上がる。そろそろ予鈴のチャイムがなるはずだ。校舎の壁に掛かっている大きな時計を見上げると、 「明日もここで、二人で会いたいな」  また、低くて、静かな夏樹の声。 「優奈ちゃんの髪、明日も結ってあげる」  慌てて振り返ると、そこにはいつもの人懐っこい笑顔と声の夏樹がいた。     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加