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いやいや、と手を振る私を見下ろして、夏樹が唇を尖らせる。そういうことを恥ずかしげもなく言ってくるのは最初から。はいはい、と適当にあしらうと、夏樹はさらにむくれた。
先を歩く女の子は、角を曲がって姿が見えなくなった。
そんなに難しい髪型じゃない。私でも結えなくはないだろう。手先の器用さに自信がないから、ちょっと時間は掛かるとは思うが。
「でもねぇ……」
思わず、ぽつりと呟く。
両親は再婚同士だ。
娘が生まれて、すぐに事故で夫に先立たれた母と。息子を産んで、すぐに元カレと行方をくらました妻に置いて行かれた父と。
境遇のわりには悲壮感もなく、のほほんとした雰囲気の二人が再婚することに、私たち姉弟はもろ手を挙げて喜んだ。私たち姉弟――と、言うのは、母の連れ子である私と。父の連れ子である一才下の弟のこと。
親子仲も、姉弟仲も良好。家族四人での平穏な生活が一年ほど続いたあと。一気に賑やかになったのはちびたちが生まれてから。
双子の妹たちと、さらに一年後に生まれた弟と。小さな、小さな怪獣たち。
可愛いけれど、手はすごく掛かる。手は掛かるけれど。おねえちゃんだから、と言う責任感のようなものもあるけれど。でも、やっぱり大事だと思う。だから――。
「時間ないから」
ついつい自分のことはあとまわしにしてしまう。
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