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校門をくぐって、昇降口ではなく中庭へと向かう夏樹のあとをついていく。中庭の端に置かれたベンチの前で足を止めた夏樹に、
「はい、座って」
「はいはい」
そううながされて、背中を向けて座った。
髪を結ってあげると言われて、最初は断ったのだが。すぐに終わるからと言われて、結局、お願いすることにしたのだ。
悲しいかな、夏樹の方が手先が器用なのはよく知っている。前に沙奈と里奈の髪を結ってもらったときにも、早い上にきれいに結ってくれた。
クシは持ってる? と、聞かれて、カバンから折りたたみのクシを取り出す。手渡すと、夏樹は優しい手付きで髪をすき始めた。
毎日、沙奈と里奈の髪をすいているが、自分が誰かに髪をすいてもらうのは久々だ。初めて会ったときには、同じくらいだったのに。大きくて温かな手の感触に、私は思わず目を細めた。
中庭にはさくらが一本、植えられていて今が見ごろ。ひらひらと花弁が舞い散るのがきれいだ。先週末、家族みんなで花見に行ったけれど、ちびたちを追いかけまわしていて花なんて全然、見ていなかった。
ちょっとだけ胸がきゅっと痛くなって、それを誤魔化すために私は笑みを浮かべた。
「なぁに、にやにやしてんの?」
「週末、みんなで花見に行ったんだけど、花を見た記憶が全然ないんだよね」
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