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また不機嫌な声だ。本当にころころと変わるな、と苦笑する。夏樹の機嫌が悪くなったり良くなったりするポイントがよくわからない。わからないけれど、不思議なことに不愉快な気持ちにも不安な気持ちにもならないのだ。だから、
「友達にもおんなじこと言われたよ。ちびたちにかまけてばっかだって。ちょい女捨て気味だから気を付けろとまで言うんだよ」
けらけらと笑いながら答える。
ついでに、
「そんなんじゃ、高校に行っても彼氏の一人もできないよ!」
とも言われた。真顔で。
「ダメなのかなぁ」
桜の花弁が散り始めていることに気が付いたときと同じ。胸がきゅっとなる。ふと気が付いて、いつの間にか時間が過ぎていたことにおろおろするような、漠然とした不安。
別に、絶対に彼氏が欲しいというわけではないけれど。そういうのに憧れがないわけじゃない。いつか、と思っている、そのいつかがいつの間にか過ぎてしまっていたらーー。
「いいよ」
ハッ、と。夏樹の声に顔をあげる。あげてから、いつのまに俯いていたのだろうと思う。
「いいよって……?」
あわてて笑顔を作って尋ねると、
「いいよ、優奈ちゃんはちびたちにかまけてて」
そっと、優しい手つきで頭を撫でられた。
「その分、俺が優奈ちゃんのことを構ってあげるから」
年下のくせに。なんだか生意気なことを言っているのがかわいらしい。沈んでいた心が、ふわりと軽くなる。
「はいはい、ありがとう」
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