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「……その通りだ」
「あなたに騎士としての生き方があるのと同様、わたしにも覚悟がある。そこのところをわかっていただけるんでしょうな?」
「なるほど、立派なものだ」
曖昧に笑うガウィの目の前で再び、ダントンは片眉を吊り上げ、逆側の頬をヒクつかせたが、その後すぐにため息をついた。
「……来週また来ます。その時に払う宛てもないようなら、今度こそなにかをカタにいただきますからね」
「申し訳ない!」
再び床に額をこすりつけるガウィに背を向け、ダントンはガレージを出て行った。
「……やれやれ」
ガウィは身体を起こし、そのまま床にあぐらをかいて座りこんだ。危うくカタに取られそうになった愛機『レフトフォイル』を見上げる。
「……来週か。なんとかしねぇとなぁ」
無精ひげの生えた顎を親指で撫でながら、ガウィは思案した。
騎士身分だとはいうものの、爵位を持っているわけでもなければ、領地があるわけでもない。安定した定期収入がない上に、機甲全身鎧フルプレートの維持にも金がかかる――エゥディカ大陸における支配階級であるはずの騎士も、その生活は楽ではない。最近では金に困り、廃業して一般企業に就職したり、または犯罪に手を染める騎士も多いと聞く。
「……バイトでもするかなぁ」
「なんの仕事をするつもりなんです?」
後ろから不意にかけられた声に思案を遮られる。振り返ると、紙袋を抱えたメイド服姿の女が、いつの間にか立っていた。
「やぁ、V.D.。昼メシ、買って来てくれたか」
「ナイザン・ジョンのスパイス・ブルズ、チーズとマスタードたっぷりトッピングオニオン抜きにチキン・ブレード。好きなのはわかりますが、本当こればっかりですね」
「いいじゃないか。返済交渉のカロリーを補充しないとな」
メイドのV.D.――本名はヴィー・ディーディアントゥという――から紙袋を受け取り、ガウィは隣接する母屋のリビングへと向かいながら、さっそくチキン・ブレードを取り出してその場で齧る。
「うん、美味い。この店、バイト募集してなかったかな?」
「やめてください。あたしが恥ずかしいです」
そういいながらV.D.はキッチンへ立ち、コーヒーを淹れ始めた。
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