1人が本棚に入れています
本棚に追加
笑顔の受付嬢が信一郎を迎えている。その笑顔には、一切の不自然さは感じられない。表情を作る人工筋肉の発達には、いつ見ても驚かされる。
「担当の者がすぐに参りますので、しばらくお待ちください」
そう伝えた受付嬢は、じっと信一郎の顔を見つめている。ここで目線を外さないとくだらない世間話が始まると思った信一郎はとっさに目線を外して、受付嬢に背を向けて辺りの様子を観察していた。
「坂本先生、お待たせしました」
振り返ると、大学出たてと思える青年が立っていた。
「どうも、遅くなってしまって、すみません」
信一郎が会釈程度に頭を下げると、
「こちらこそ、急に呼び出してしまって、すみません」
と、青年は深く頭を下げた。
「それで、私は何をすれば?」
信一郎は率直な疑問を青年にぶつけた。青年は首に社員証をぶら下げていて、そこには木下昇と表記されていた。
「歩きながら、簡単に説明しますので、こちらへどうぞ。疑問点があれば、その都度、質問してください」
そう言うと、木下はエレベーターへと信一郎を案内した。その後を追う信一郎が、チラリと受付に視線をやると、まだ受付嬢は笑顔のまま固まっていた。
「資料は読んでいただけましたか?」
エレベーター前で立ち止まった木下が隣に立った信一郎に質問した。
「一応」
最初のコメントを投稿しよう!