第一章其の二 教官の記憶

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 ブリットは、少女戦闘機部隊の一人で、一隊員の視点からリアルな少女部隊や戦争を記録していた。小説というようなものではなく、日記のようなものだった。そして、彼女の書いた記録を元に作られたのが『エリーロの空を駆ける』という映画。派手なアクションや戦争での空中戦はあまり描かれておらず。隊員だった三人の少女の儚い恋物語を中心に描かれた地味な作品だった。  残念ながら全くヒットしなかったけれど、隊員たちとその教官の描写は一番事実に近いものだった。 「いい映画よね。私がたまに悪者なのが納得はいかないけれど」  別の理由で憤慨するティルデに、ヨーコは今度は苦笑いで応じるしかなかった。映画の中では、規則と部隊として生き残るために個人の勝手な行動を認めないリーダーだった。それは、実際にもそういうことはあったのだけれど、映画の中では恋路を邪魔する役目が強調されて描かれていた。   「教官と出会った時の印象? そうね。どんな鬼教官なおじさんが来るのか怯えていたら、優しそうなお兄さんでみんなほっとしていたわね」  ロイ教官のことを話す時のティルデは、少しだけ寂しそうだった。でもそれは、懐かしそうに微笑みながら楽しそうな笑顔にも見えた。大切な思い出なのだということが伝わってきて、ヨーコとしても今日、ここで話を聞けてよかったとしみじみ思うのだった。 「でも、教官の方は私たちを見て、驚いていたみたい。あまり表情には出さないようにしていたけれど、さすがに私たちにも伝わってきたわ。これは『何の間違いだ』って」 「何の間違いだ」     
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