第一章其の三 教官への記憶

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「だって、当時の政権があいつらだったし。当然でしょ。女の子たちは政治のことなんて興味は薄かったわ。実際には、みんな教官と寝るために厳しい訓練に耐えて頑張っていたのよ」 「寝る……ため……」  隊員と恋仲だった噂も聴きはしたけれど、予想していたより過激な言葉がでてきてヨーコは少し頬を赤らめて困惑していた。 「あら? 可愛い反応ね。そう、私たちは教官と夜のデートのために頑張っていたのよ」  私たちが住まわされたのは、わりと綺麗な宿舎だった。余計なものは何もないというのがきっと正しい。  島には、飛行場と宿舎のあるこの基地以外は、漁村があるくらい。  周囲には何もない。夜に基地の外に出るのは、少しの距離だとしても、かなり命がけだ。ほんとに命がけだ。野生動物って怖いんだと改めて思い知らされることになった事件が何度もあった。  テレビは、食堂に設置してあったけれど、つまらない国営放送しか映らないので誰も見なくなったのだと思う。年頃の女の子たちからすれば、政治の話なんかよりみんなと話している方が楽しいのが当たり前だった。ううん、みんな楽しいふりをして気を紛らせているのだ。 (無駄な時間だ)  そう思っていた。  でも、就寝時間までに許された自由時間に、ルームメイトがみんな部屋からでている中で残って一人孤立する気にもなれなかった。     
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