第一章其の三 教官への記憶

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 歓談室という名のちょっとソファーがいくつかおいてあるだけの部屋にみんな集まっていた。つかの間のおしゃべりでみんな盛り上がっている。  私よりちょっとだけだけど年下の子が多い女の子たちの輪に積極的に参加する気にはなれずに、ちょっと外のソファーに腰掛けつつ適当に愛想笑いをしていた。十代も後半になれば一つや二つの歳の違いはそんなに気にならない。でも、年下の女の子たちからすれば私は、ちょっと怖いお姉さんなんだろう。ちょっとみんなも遠慮がちだった。  私も、実際のところは不安だったのだろう。群れたくもないけれど、一人でいるのも怖かった。 「ああ、セックスがしたい!」  私の隣に座っていたマルティーヌが突如、そんな言葉をぼそりと口にした。  マルティーヌ・リーカネンは私と同じくこの訓練生の中では一番年上の十八歳だった。天然パーマだと言い張るその髪は肩までの長さでも、どこかふわりと揺れて綺麗だった。軍服どころか、ジャージであってもどこか崩して着こなそうとする私からすると意味不明な女子だった。  はっきりとした声は、歓談室中のみんなの耳に届いてしまい、私も含めてみんながちょっとの間、動きが止まった。 (何言ってんだこいつ)  率直に私は思った。他の子たちもそこまでは思ってはいないかも知れないけれど、明らかに戸惑った静寂の時間があった。     
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