9/9
前へ
/35ページ
次へ
――間をとってもいいんじゃないか。猫伏、何故お前が間をとらない。お前は、そういう役割じゃないのか――  続く二番打者には四球。これで満塁。たまらずタイムをかけたくなるが、グッとこらえる。まだ秋じゃないか、中田はそう自分に言い聞かせる。一度六回に肩を作らせた杉坂にもう一度肩を作らせる。ブルペンがシュウの視界に入ることも考慮した。  三番の角には、ストレートの四球。もはや誰がどう見ても、おかしい。  捕手の高木がようやくタイムをとってマウンドに向かう。マウンド上で一言二言シュウと言葉を交わし、カチャカチャと防具を鳴らしてホームへと戻った。 中田には見つめるより、他はなかった。  そして迎えた四番の中村。  中途半端な高さに入ったスライダーが、スコアボードを直撃した。  センターを守る青田は、一歩も動かない。そんな打球だった。  中田はようやく重い腰を上げて、審判に投手の交代を告げざるを得なかった。  呆然とするシュウから、杉坂がボールを受け取る。  それがシュウの最後の登板になった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加