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 荷造りを終えたシュウは、荷物の少なさに驚き、またそのことに驚いている自分にも驚いた。野球をしに日本に来て、野球しかせずに、そして野球が出来なくなり、去る。だから荷物が少なくなるのは当然で、そんなことに気づきもしないくらい野球に没頭していた自分がいた。  仕方のないことだった。ヒジに違和感を覚えたのは夏頃からだったか。だましだましやってきたが、ついにその時が来た。  秋の大会が終わり、直ぐ医者にかかった。何軒もかかった。そのどれもが、復帰には一年以上を要するという返事だった。  高校二年生の、それもスポーツ留学をしていたシュウにとってそれは死刑宣告に等しい。  あの八回、ついに限界が来たと思った。しかし、そこで引くわけにはいかなかった。ヒジが悪いということは、誰にも言わなかった。悟らせることすらしなかった。  痩せ我慢やプライドのためではない。勝つためだ。  勝つために日本に来た。だから、そのために最善を尽くした。そして、このザマだ。  また負けたのか、と思った。  最初に負けたのは、13歳の頃。バドミントンで道が絶たれた時だったなと、この数か月さんざん思い返した。あの頃も絶望した。     
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