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 もっとも、指示されたから走ることが本質ではないことは分かっている。特に、60本を終えて、肩で息をするとそのことが良くわかる。でも、60本たっぷり無視してきた。  そつなく三番とショートをこなす。強豪校からの誘いもあった。あえて地元の公立高校に決めた。一年生の時分から結果を残してきた。なんのために?  野球は好きだ。そこに偽りはない。が、好きなだけで無邪気にやっている立場ではない、とハカセは言った。いつ頃だっただろうか。無邪気なだけのつもりはないが、そう映ったのならそうなのだろう。気にもとめないという選択肢もあったが、棘のように心に残る。  サボリもしない。手も抜かない。野手として、そつなくこなしている。その上、一体何が求められているのか。  無視したいが、無視できない。  65本。9回の裏のマウンドには、まだシュウがいた。  シュウ。中国人留学生。正確無比なコントロールと、自身をもって投げ切るスローカーブが武器。一年生の秋からエースを務める。当然、新チームでもエースだ。  気さくな男だ。誰とでも簡単に打ち解けるし、悪い噂は聞かない。この度めでたく主将に選ばれたが、チーム内外誰も驚かない。  そういう男が、今マウンドにいる。  そして猫伏は、外野を走る。そんな構図だ。     
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