1人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
もっとも、指示されたから走ることが本質ではないことは分かっている。特に、60本を終えて、肩で息をするとそのことが良くわかる。でも、60本たっぷり無視してきた。
そつなく三番とショートをこなす。強豪校からの誘いもあった。あえて地元の公立高校に決めた。一年生の時分から結果を残してきた。なんのために?
野球は好きだ。そこに偽りはない。が、好きなだけで無邪気にやっている立場ではない、とハカセは言った。いつ頃だっただろうか。無邪気なだけのつもりはないが、そう映ったのならそうなのだろう。気にもとめないという選択肢もあったが、棘のように心に残る。
サボリもしない。手も抜かない。野手として、そつなくこなしている。その上、一体何が求められているのか。
無視したいが、無視できない。
65本。9回の裏のマウンドには、まだシュウがいた。
シュウ。中国人留学生。正確無比なコントロールと、自身をもって投げ切るスローカーブが武器。一年生の秋からエースを務める。当然、新チームでもエースだ。
気さくな男だ。誰とでも簡単に打ち解けるし、悪い噂は聞かない。この度めでたく主将に選ばれたが、チーム内外誰も驚かない。
そういう男が、今マウンドにいる。
そして猫伏は、外野を走る。そんな構図だ。
最初のコメントを投稿しよう!