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夏のグラウンドは、脆い。誰かがサクサクとした菓子のようだと言っていたが、なるほど言い得て妙だ。少なくとも初めのうちは。
68本も走ると、どうだろうか。少しは手の入った畑のように見える。耕運機猫伏が34回往復すると、サクサクの菓子はふかふかとする。砂浜のようになったグラウンドの砂が、ランニング・シューズに入り込む。
ツーアウト、ランナー二塁。只今69本目。
シュウが外角に構えられたミットにストレートを叩きこんだ。これでワンストライク。
相手の7番打者には荷が重いだろう。続く大きく割れるスローカーブにも反応できない。
なんとか試合終了までには、という思いもありラスト一本へと舵を切る。胸もとの直球でのけぞらせて、低めの変化球でポップフライ。見なくても未来が見える、と思っていた。
センターからの折り返しまで足を運んだところで、高い金属音が響いた。右に首を向けると、ライトを守る青田が走りこんでくる。
球は転々右中間。意図せずに歩調が緩まる。腰丈ぐらいの可動フェンスに打球が跳ねる。
ようやく青田が追いつきサードへと大遠投。
きわどくはならなかった。たっぷりお釣り付きの、タッチアウト。
ふう、と一息つく青田と猫伏の目が合った。
にやりと笑って、「どや」とガッツポーズを作る青田に、惜しみない拍手を送る。
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